前回、12歳の息子のロードバイク練習を最適化するため、深夜にAIと「ミトコンドリア」について変態的な壁打ちをしたお話をしました。
▼ そもそも、なぜ私が深夜にAIとミトコンドリアについて激論を交わすことになったのか。その「狂気のリサーチ」の裏側はこちらの前編をご覧ください

苦労の末に「なぜこの退屈なメニューが必要なのか」という本質(Why)を完璧に仕入れた私。 ここで、私の中の「お節介な料理人」が、誇らしげにエプロンを引っ張り出してきて暴れ始めました。
(おい、息子よ!パパが徹夜で調べたミトコンドリアの働きを聞け!) (この細胞レベルのメカニズムを知れば、お前はきっと目を輝かせて『パパすごい!僕、明日からもっと考えて練習するよ!』と言うに違いない……!)
そんなドロドロの承認欲求と、親としての強烈な下心を胸に秘め、ローラー台を回し終えた息子に意気揚々と「ミトコンドリア講義」を始めた私。
しかし、そこで待っていたのは、期待とは180度違う一言でした。
「……もういいよ、パパ」
見事なまでの塩対応。馬の耳に念仏、糠に釘とはまさにこのことです(笑)。 父親の熱血講義に対する12歳のリアルは、私のちっぽけなプライドをあっさりとへし折ってくれました。
ビジネスの世界でも、「言われたことをただこなす」だけでなく、「本質を理解し、自分で考えて行動できる人(自律型人材)」になってほしいと願うマネージャーは多いはずです。 今回は、ドヤ顔の空振りという親の悲劇と、そこから見えてきた「守破離」へ向けての地道な種まきについてお話しします。
エプロンを着た父親の「ミトコンドリア講義」
深夜のAIとの格闘の末、ついに「息子の能力を最大化するメニューの根拠」を手に入れた私。 最高の素材(知識)を仕入れたことで、私の中の「お節介な料理人」は完全に調子に乗っていました。
(この完璧な理論を教えれば、あいつもきっと覚醒するはずだ!) (「パパ、徹夜で調べてくれてありがとう!僕、今日から練習の意識を変えるよ!」なんて言われちゃうかもしれないぞ……)
そんな淡い、いや、かなりドロドロした期待と下心を胸に、ローラー台を回し終えた息子を捕まえました。
「お疲れ!今の退屈なメニューさ、自分の身体の中で何が起きてるか分かるか?実はな、人間の身体にはエンジンがあって……」
私は意気揚々と、ミトコンドリアの増加がいかに脂肪燃焼に繋がり、それが今の成長期にどれだけ重要かという「AI直伝の最強理論」を語り始めました。完全に、自分の知識をひけらかしたいだけの「ドヤ顔の料理人」です。
「もういいよ、パパ」。12歳の息子に理屈は響かない
しかし、熱弁を振るう父親に対する12歳の反応は、あまりにも残酷でした。
「……ふーん。わかった、もういいよ、パパ」
ちーん。見事なまでの塩対応です。 細胞レベルのエネルギー代謝の話なんて、疲れた12歳の男の子にとっては「校長先生の長い話」くらいどうでもいいことだったのです。私のちっぽけなプライドは、あっさりと粉砕されました。
でも、ここで面白いことに気づきました。理屈は全く響いていないし、ウザがられているのに、息子は私が提示したその「退屈なメニュー」を、文句も言わずにしっかりこなしているのです。
なぜか?それは、「パパが自分のために、一生懸命調べてくれたメニューだから」です。
彼を動かしていたのは、ミトコンドリアという「論理」ではなく、親の熱意という「感情」でした。
「パパがそこまで自信満々に言うなら、まあ効果があるんだろう。やってやるか」という、親子の信頼関係だけでペダルを回してくれていたのです。
綺麗事じゃない。指示待ちではなく、自分で考える人になってほしい
親の熱意に応えて、言われた通りに動いてくれる。武道でいう「守(Shu)」の段階としては、これだけでも100点満点です。今の年齢なら、これでも十分なのかもしれません。
でも、私の本音は違います。綺麗事を抜きにすれば、やっぱり焦りがあるのです。
(今はパパの熱意で動いているけれど、いつか自分で「なぜこれをやるのか」を考えられるようになってほしい)
仕事でも同じですよね。言われたことを正確にこなせる人はたくさんいます。でも、「この業務の本質はこうだから、もっとこういうアプローチに変えませんか?」と、自分で考えて提案(行動)できる人は、驚くほど少ないのが現実です。
将来、彼がアスリートとして、あるいは社会人として壁にぶつかった時、パパが調べてきたメニューを待つだけの「指示待ち人間」になってほしくない。ダルビッシュ有選手(野球)や為末大さん(陸上)のように、自分で自分の身体をハックする「自律型人材」になってほしい。
▼ 指示待ちにさせないために。親は『情報』を提示し、子どもに『決定』を委ねる。このマネジメント手法が娘の大学受験でどう機能したか、その成功事例をこちらで詳しく書いています

そのためには、今は「もういいよ」とウザがられてしょんぼりしても、親である私がめげずに「問い」や「知識の種」を蒔き続けるしかありません。
いつか彼が「守」を破り、「破・離」のステージへと自ら歩み出すその日まで、私は何度でも出かかったエプロンをしまって、懲りずに裏方(仕入れ担当)としての情報収集を続けようと思います。
【親のためのマネジメント視点】今日の気づきとメソッド
今回の一件で、私はマネジメントにおける最大の皮肉であり、真髄に気づかされました。 それは、「AIが弾き出した『完璧なロジック』では人は動かず、最終的に人を動かすのは『泥臭い熱意と信頼』である」ということです。
ビジネスの現場でも、どんなに立派なデータやコンサルの正解を突きつけても、それだけでメンバーは自律的には動きません。「この人が自分のためにここまで真剣に考えてくれたから、やってみよう」という土台(信頼関係)があって初めて、人は重い腰を上げるのです。
今の息子は、まさにその土台だけでペダルを回してくれています。今はそれで100点です。
私がドヤ顔で語った「ミトコンドリアの知識」は、今はまだ彼にとって開ける必要のない箱に過ぎません。でも、将来彼がアスリートとして本当の壁(スランプ)にぶつかった時。
「あ、パパが昔言ってたあのウザい話って、もしかしてこういうことか!」と、彼の中で点と点が繋がる瞬間が必ず来ます。
私の空回りした講義は、彼が「守」から「破・離」へ向かう時にだけ開く、未来のタイムカプセルのようなものです。
相手がすぐに理解してくれなくても、ウザがられて少ししょんぼりしても(笑)。いつか開くタイムカプセルを信じて、めげずに「本質(Why)」を渡し続けること。
それが、AI時代になっても変わらない、泥臭くて最も確実な「人を育てるマネジメント」なのだと思います。

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