(中編のあらすじ:成長期の膝を壊したのは、自分の焦りと合わない機材だったと猛省した私。「痛みが完全に消えるまで乗らない」という決断と、クランク長などの徹底的な機材見直しを経て、ついに息子はローラー台でのリハビリ復帰を果たした。しかし、通常状態に戻るまでの道のりには、子供の「本能」という新たな壁が待ち受けていた……)
「ねえ、もっとギア重くしていい? スピード出なくて全然楽しくないんだけど」
ローラー台の上でペダルを回しながら、息子が不満げに口をとがらせました。
リハビリ復帰にあたり、私は心を鬼にして「フロントギアのインナー(軽いギア)固定」という物理的な封印を施していました。強制的に重いギアを踏めなくしたのです。
▼ なぜ「口で注意する」のではなく「物理的に封印」したのか。親のドロドロした焦りを封じ込め、最強の裏方に徹すると決めた「中編」の記録はこちらです。

無理もありません。ついこの間まで、重いギアで時速35km以上を出してローラーに乗っていたのに、今はかなり軽いギアで時速21kmぐらいでシャカシャカと回すだけ。 心拍数は上がらないのに脚だけが忙しく、スピードメーターの数字は一向に伸びないのですから。
しかし、私は首を横に振りました。
「ダメだ。今はスピードを出す時期じゃない。とにかく軽いギアで、回転数(ケイデンス)を上げる練習をするんだ」
息子は「えー……」とあからさまにテンションを下げ、嫌々ペダルを回し始めました。 その背中を見ながら、私は胃がキリキリと痛むのを感じていました。
理屈じゃ動かない12歳。「ケイデンス×トルク」の限界
私がなぜ、ここまで「軽いギアで高回転」にこだわるのか。 それは、成長期の柔らかい関節(特に膝)を守りながら、将来のための強靭な心肺機能(エンジン)を作るためです。
彼を苦しめた成長痛(オスグッド)は、重いギアを足で力任せに踏み込み、太ももの「前側」の筋肉を酷使することで膝に強烈な負荷がかかる仕組みになっています。 だからこそ、太ももの「裏側(ハムストリングス)」を使ってスムーズにペダルを回せるようになるまで、絶対に重いギアを踏ませてはいけないのです。
しかし、息子は心肺機能が強いため、息が上がらなければ「まだまだいける!」と無意識に重いギアを踏み込んでしまいます。この踏み込む力(トルク)こそが、確実に彼の膝を再び破壊していくのです。
私は彼を納得させようと、ロードバイクの物理学を持ち出しました。
「いいか? 自転車のパワー(速度)っていうのは『ペダルを回す回転数(ケイデンス)× 踏み込む力(トルク)』なんだ。踏み込む力を軽くしても、回転数を上げれば同じスピードが出る。だから膝を守るために回転数を上げるんだよ」
我ながら完璧な説明だと思いました。 しかし、12歳の反応は残酷です。
「……ふーん。でも、重いギアの方が速いじゃん」
完全にウマの耳に念仏でした。 大人の論理や数式なんて、スピードを出したいという子供の「本能」の前では何の役にも立たなかったのです。
親の決断と、AIが導き出した「夏の覚醒クエスト」
案の定、インナー固定による「遅くて楽しくない!」という大ブーイングで、息子のモチベーションは急降下です。
「このままじゃ、自転車自体を嫌いになってしまうかもしれない……」
焦った私は、夜な夜なAI(Gemini)を相手に壁打ちを重ねました。 「どうすれば、ゲーム好きの彼が『高回転の地味で簡単なメニュー』に夢中になってくれるのか?」
AIと議論を重ねた結果、導き出した結論。 それは、この退屈なリハビリ練習を『リアルRPGゲームのクエスト』に変えてしまうことでした。
私は息子に、一枚の「挑戦状(クエスト)」を突きつけました。
【夏の覚醒クエスト:クリア条件】
- ギア: フロント34T × リア⚫️T(インナーで出せるかなり重いギア)
- ケイデンス: 110rpm キープ
- 心拍数: Z2心拍をキープ
- 時間: 30分間キープ
▼ お気づきでしょうか。実はこのクエスト条件、以前AIが算出した「到底不可能に思える暴論(目標)」と全く同じ数値です。あの時は絶望した壁に、今、ゲーミフィケーションの魔法で挑みます。

「この条件をクリアできたら、重いギア(フロントギアのアウター)を解禁してやる。おまけに、お前がずっと欲しがっていた『カーボンホイール』を買うための資金も援助してやろう」
その瞬間、先ほどまでのふてくされた顔が嘘のように、息子の目がキラキラと輝き始めました。
「……ホイール、まじでいいの? やる、やるよ!」
憧れの「ポガチャルシフト」と、泥臭い親の伴走
私はこの夏の挑戦を、ロードバイク界の生ける伝説である選手になぞらえて「ポガチャルシフト」と名付けました。
「いいか? ケイデンスを上げて軽いギアを回せるようになれば、レースの終盤でも確実に脚が残る。何より、膝が絶対に痛くならない。あのポガチャルだって、小さい頃からずっと高回転で回す練習をしてたんだぞ。今のやり方は絶対に間違ってない」
そう伝えると、彼のモチベーションはさらに燃え上がりました。
とはいえ、いくら「クエスト」や「憧れの選手」という魔法をかけても、最初のうちは100rpmを回すのがやっとで「やっぱりスピード出なくてつまんない……」と不満をこぼす日も何度もありました。
そんな時、私は彼の横に張り付きました。
「今はこれでいいんだ。この回転数が、いざという時のスプリントで活きるんだよ」 「お前のやっていることは絶対に間違ってない。パパを信じろ」
毎日手を変え品を変え、色々な角度から彼を励まし、なだめ、声をかけ続ける。それは決してスマートではない、泥臭い親の伴走でした。
【親のためのマネジメント視点】今日の気づきとメソッド
仕事でも子育てでも、「正しい理屈」を並べるだけでは人は動きません。 「健康のために痩せた方がいい(理屈)」と言われてダイエットが続く人が少ないのと同じです。
今回私が学んだのは、相手を動かしたいなら「本人のモチベーションの源泉(ゲーム好き・アイテムが欲しい)に翻訳してあげること」。
そして、「物理的な環境(インナー固定)」と「明確なゴール(クエスト)」というシステムを用意した上で、最後は親が泥臭く横で承認し続けることでした。
今、息子は「アウター解禁」と「SSRアイテム(カーボンホイール)」を手に入れるため、文句ひとつ言わずに110rpmの超高回転ペダルを回し続け練習に励んでいます。
親が正論で引っ張るのをやめて、ゲームの「ゲームマスター(GM)」に徹し、横で信じ続けた瞬間。
▼ 親はあれこれ口を出す「料理人」になってはいけない。ゲームマスター(環境を整える裏方)に徹するという、私の子育てマネジメントの原点についてはこちらの記事もぜひご覧ください。

子どもは自らの意思で、最高のプレイヤーへと進化していくのです。

コメント