(前編のあらすじ:ゲームばかりで練習せず、集団走行でも一人遅れて悔しさを滲ませていた当時小学6年生の息子。「練習しろ!」という正論をグッと飲み込み、彼自身のエンジンがかかるのを待つ日々が続いていました。)
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コーチの魔法の一言と、5000円の「ニンジン」
変化は、思いがけないところからやってきました。 スクールのコーチが、息子にふとこんな言葉をかけてくれたんです。
「練習、やる気出ないんならさ。1ヶ月練習が続いたら、親に好きな物買ってもらったら? そしたらやる気出るんじゃない?」
親が1年間言い続けても全く響かなかったのに、第三者であるコーチの言葉は、不思議なほど彼の心にスッと入り込んだようです。
息子が要求してきたご褒美は「現金5000円」。 ゲームの課金アイテムかと思いきや、実は彼なりにYouTubeでロードバイクのパーツを調べ、「欲しいホイールを買うための足しにしたい」という明確な目的があったんです。
「おっ、意外とちゃんと考えてるな」と、彼の中にすでにロードバイクへの情熱の種が眠っていたことに、私は少し驚かされました。
冷蔵庫の計画表と「もちろん練習するよ」の衝撃
「ご褒美作戦」がスタートしてからの彼の変化は、まさに劇的でした。
なんと自分で1週間の練習時間と内容を設定し、その計画表を冷蔵庫に貼り出したんです。毎日「今日で〇日目だね!」と、嬉しそうに確認してくるようになりました。
一番衝撃を受けたのは、休日の過ごし方です。 あんなに朝から晩までゲーム漬けだった彼が、自らゲームの電源を落とし、
「今から自転車乗るから、ローラーの準備して!」
と言い放ったんです。
別の日に「今日、練習する?」と尋ねると、「もちろん練習するよ」と、まるでそれが当たり前かのように返ってきました。
ついに、彼自身の内側から「自分のエンジン」がかかった瞬間でした。親としての嬉しさと、あまりの豹変ぶりへの驚きで、私は内心こっそりガッツポーズをしていました(笑)。
運命の「不機嫌な5分間」と、父のドロドロした本音
しかし、現実はそう甘くはありませんでした。 順調に連続記録が続いていたある日、彼は突然ローラー台に乗るのを渋り、目に見えて不機嫌になったんです。
理由を聞いても「知らん」としか答えません。おそらく、急激に練習量を増やしたことによる筋肉痛や疲労、あるいは「自分で1ヶ月続けると宣言したのに、今日はやりたくない」という自分自身への苛立ちだったのでしょう。
その態度を見た瞬間、私の中でドロドロとした怒りが沸点に達しそうになりました。
(マジかよ、せっかくやれるようになったのに、ここで諦めるのかよ!? また元のゲーム漬けに逆戻りか? 自分で宣言したことなんだから、最後までやれよ!!)
怒鳴り散らして、無理やりローラー台に跨らせることは簡単でした。 しかし、言葉を発する直前、私の脳裏に冷徹な「リスク」がよぎったんです。
ここでブチギレてしまえば、彼は確実にロードバイクを嫌いになる。一緒に外を走ってくれることもなくなるだろう。それは長期的には、彼のためだけでなく、私自身の「将来、息子と一緒に走る」という夢すらも打ち砕くことになる……。
正論を手放し、逃げ道を用意する
私は深呼吸をして、沸騰しそうな怒りをなんとか腹の底に沈めました。そして、静かにこう声をかけました。
「たとえ5分でも、やれるだけで、前に比べたら大きな進歩やから。頑張ろう」
また、全く乗る気が起きず完全に心が折れそうな日には、あえてこうも伝えました。
「前よりこんなにも練習してるんやから、1日ぐらい休んでもいいんじゃない?」
自分で決めたルールを守れなかった時、一番自分を責めているのは本人なんですよね。そこに親が「正論」を押し付けても、心はさらに閉ざされるだけです。 だから私は、彼がホッとできる「逃げ道」を用意することを選びました。
この「不機嫌な5分間」と「休息の許可」が、結果的に彼の心からプレッシャーを取り除き、信じられないほどの飛躍をもたらすことになるとは……。
(【後編】へ続く)


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